雪山に潜むケガのリスク

冬の到来とともに、スキーやスノーボードといったウィンタースポーツのシーズンが始まります。雪山での滑走は、日常では味わえないスピード感と開放感を与えてくれますが、この楽しいアクティビティには、残念ながら高いケガのリスクが伴います。
特に、年に数回しか滑らない方、久しぶりに雪山に来た方は、技術や体力が落ちているにもかかわらず、過去の経験から無理をしてしまいがちです。また、スキーとスノーボードでは、転倒時の姿勢や力の加わり方が異なるため、負いやすいケガの傾向にも違いがあります。
このコラムでは、整形外科の観点から、それぞれのスポーツで注意すべき主要なケガの種類、その発生メカニズム、そして何よりも大切な予防策と、万が一の際の対処法について詳しく解説します。安全にシーズンを満喫するために、ぜひご一読ください。
スキーに多い「ひざと親指」のケガ
スキーは、両足がスキー板に固定されているため、転倒時に板が外れずに足がねじれたり、関節が過度に伸ばされたりすることで、膝関節に強い負荷がかかります。
1. 膝関節の靭帯損傷
スキーでの最も重篤なケガの一つが、前十字靭帯(ACL)損傷です。これは、ターン中や転倒時にひざが強くねじれたり、伸びきったりした際に発生し、「ブチッ」という断裂音を伴うこともあります。この靭帯が損傷すると、ひざの不安定性が生じ、激しい痛みとともに、滑走の続行はほぼ不可能になります。
また、ひざの内側が強く圧迫されることで起こる内側側副靭帯(MCL)損傷も頻繁に見られます。これはACL損傷と合併することもあり、ひざの安定性に大きな影響を及ぼします。
2. 半月板損傷
ひざの衝撃吸収材である半月板は、ひざを曲げ伸ばしする動作に強いねじれが加わることで損傷します。損傷すると、ひざの奥に痛みが走るだけでなく、「ひざの引っかかり」や、急にひざが動かせなくなる「ロッキング現象」を引き起こすことがあります。
3. スキーヤーズ・サム(母指MP関節靭帯損傷)
これはスキー特有のケガです。転倒時にストックを握ったまま雪面に手をつくと、ストックが支点となって親指が外側に強く反り返り、親指の付け根の靭帯を損傷します。重症化すると、手術が必要になることもあるため、「ただの突き指」と軽視せずに専門医の診察を受けるべきです。
スノーボードに多い「上肢と体幹」のケガ
スノーボードは、両足が板に強く固定され、滑走中にバランスを崩すと、とっさに手をついてしまうことが多いため、手首、肩、体幹に衝撃が集中しやすい傾向があります。
1. 手首の骨折
スノーボーダーに最も多いケガが、転倒時に手をついて起こる手首の骨折(橈骨遠位端骨折)です。手首に体重とスピードの全負荷がかかり、容易に骨折に至ります。特に初心者や、エッジング(板の端を雪面に立てて滑る技術)に慣れていない方が、バランスを崩して手のひらから着地する際に発生します。
2. 肩の脱臼と鎖骨骨折
スピードが出ている状態で肩から激しく雪面に衝突すると、肩関節脱臼や鎖骨骨折を引き起こすリスクが高まります。肩関節脱臼は激しい痛みを伴い、再発しやすいのが特徴です。
3. 脊椎(背骨)と尾骨のケガ
硬い雪面やアイスバーンで、お尻から強く尻もちをついた場合、背骨に強い圧力が加わり、脊椎圧迫骨折や尾骨骨折を起こすことがあります。脊椎圧迫骨折は、安静が必要で、治療が長引くこともあるため、非常に注意が必要です。
安全に楽しむための3つの重要な予防策
ケガはアクシデントですが、適切な準備でそのリスクを最小限に抑えられます。
1. シーズン前の体づくりとコンディショニング
筋力と柔軟性を高めておくことが、最大の予防策です。特に、スキーではひざ周りの筋肉(大腿四頭筋)、スノーボードでは体幹と下肢の安定性を高めるトレーニングが有効です。シーズンインの数週間前から、スクワットや体幹運動を日常に取り入れましょう。
2. 適切な装具とプロテクターの着用
ヘルメットは、重篤な頭部外傷から命を守るために必須です。必ず着用しましょう。スノーボードでは、最も頻繁に負傷する手首を守るリストガードと、尻もちによる衝撃を和らげるヒッププロテクターの着用を強く推奨します。スキーでは、板とブーツを固定するビンディングの解放値を、ご自身の体重や技術レベルに合わせて専門家に調整してもらうことが、膝の靭帯損傷を防ぐ上で極めて重要です。
3. ゲレンデでの安全意識と疲労管理
滑走前には、全身のストレッチと軽い運動で準備運動を徹底しましょう。自分の技術レベルと体力に合ったコースを選び、無理をしないことが肝心です。疲れを感じたら、無理せずこまめに休憩をとりましょう。疲労は集中力の低下を招き、ケガの最大の原因となります。
緊急時の対応:ケガをしてしまったらどうするか
万が一、ケガをしてしまった場合は、パニックにならず、まずは安全を確保して冷静に対応しましょう。
ケガの初期対応は、炎症と痛みを抑えるためのRICE処置が基本となります。
Rest(安静): 患部を動かさないようにします。
Ice(冷却): 雪や氷を使って患部を冷やし、炎症と内出血を抑えます。
Compression(圧迫): 患部を包帯などで適度に圧迫し、腫れを防ぎます。
Elevation(挙上): 患部を心臓より高い位置に保ち、腫れの軽減を図ります。
整形外科への受診の目安
以下のような重い症状が見られる場合は、「ただの捻挫」と自己判断せずに、すぐに専門の整形外科を受診してください。
- ひどい痛みで体重を全くかけられない場合。
- 関節が異常にグラグラと不安定に感じる場合。
- 関節が腫れ上がり、急速に内出血が広がっている場合。
- 明らかな関節の変形が見られる場合。
靭帯損傷や骨折は、適切な治療を早期に行わないと、慢性的な痛みが残ったり、将来的に変形性関節症などの後遺症につながる可能性があります。
まとめ:備えあれば憂いなし!
安全にウィンタースポーツを楽しもう
ウィンタースポーツは、準備を怠らなければ、これほど楽しいものはありません。
シーズン前の体づくり、適切な装具の準備、そしてゲレンデでの安全意識を徹底することで、ケガのリスクは大きく減らすことができます。
もし、滑走中に痛みや違和感を感じた場合は、我慢せずに滑走を中止しましょう。そして鶴橋・玉造の山本整形外科にご相談ください。私たちは、最新の専門知識と機器をもって、皆様のケガからの早期回復と、活動的な冬の生活への復帰を全力でサポートいたします。
万全の準備で、この冬も安全に最高の雪山を楽しみましょう!
