
朝晩の気温が下がり、過ごしやすい季節となりました。食欲の秋、スポーツの秋、芸術の秋と、楽しいイベントも多いこの時期。しかし、整形外科のクリニックでは「ぎっくり腰」の患者さんが増える傾向にあります。
「なぜ秋になるとぎっくり腰になるの?」「気温が関係あるの?」
そう疑問に思った方もいるかもしれません。
このコラムでは、秋にぎっくり腰が増える理由を解明し、さらにご自宅で簡単にできる予防法や、もしもぎっくり腰になってしまった時の正しい対処法について詳しく解説します。秋を健やかに、そして快適に過ごすために、ぜひ最後までお読みください。
ぎっくり腰とは? 正式名称とメカニズム
「ぎっくり腰」は、正式には「急性腰痛症」と呼ばれます。その名の通り、突然、腰に激しい痛みが走り、まるで電気が走ったような、または腰が抜けたような感覚に襲われるのが特徴です。
「魔女の一撃」とも称されるこの激痛は、日常生活を困難にさせることがあります。しかし、その原因は様々で、単一の病名ではありません。
- 筋肉や筋膜の損傷: 重いものを持ち上げようとした時、くしゃみをした時、急に振り返った時など、特定の動作で筋肉や筋膜が急激に引き伸ばされ、微細な損傷を起こすことが主な原因です。
- 椎間関節の捻挫: 背骨と背骨をつなぐ「椎間関節」が、急なひねりや不自然な姿勢によって捻挫を起こし、炎症を起こすことがあります。
- 椎間板ヘルニアの初期症状: 椎間板というクッションが飛び出す椎間板ヘルニアも、急激な腰痛として発症することがあります。
このように、ぎっくり腰は特定の原因というより、腰にかかる過度な負担が引き金となって起こる、急性的な炎症状態であると理解することが重要です。
なぜ「秋」にぎっくり腰が増えるのか?
「秋」という季節が、ぎっくり腰を引き起こす要因と聞くと不思議に思うかもしれません。しかし、そこにはいくつかの医学的・環境的な理由が隠されています。
1. 気温の変化による身体への影響
夏から秋にかけて、朝晩の気温差が大きくなります。この急激な気温の変化が、私たちの身体に大きなストレスを与えます。
- 血管の収縮: 気温が下がると、身体は体温を保とうとして血管を収縮させます。これにより、血流が悪くなります。特に、腰回りの筋肉は太い血管が少ないため、冷えの影響を受けやすく、血行不良に陥りがちです。
- 筋肉の硬直: 血行が悪くなると、筋肉に酸素や栄養が行き渡りにくくなり、老廃物が溜まりやすくなります。これにより、筋肉が硬くなり、柔軟性が失われます。硬くなった筋肉は、少しの負担でも損傷しやすく、ぎっくり腰のリスクが高まります。
- 自律神経の乱れ: 気温の急激な変化は、体温調節を司る自律神経にも負担をかけます。自律神経が乱れると、筋肉の緊張状態が続いたり、痛みを感じやすくなったりすることがあります。
2. 運動不足と身体の柔軟性の低下
夏の暑さで運動を控えていた方が、秋になって急にスポーツを始めたり、活動量が増えたりすることがあります。
- 急な運動の開始: 涼しくなったからと急に激しい運動を始めると、準備ができていない身体は大きな負担にさらされます。特に、普段使わない筋肉を急に動かすと、筋肉や関節が損傷しやすくなります。
- 身体の柔軟性低下: 夏の間、冷房の効いた室内で過ごすことが多かったり、暑さで運動をサボりがちだったりすると、知らず知らずのうちに身体の柔軟性が失われています。柔軟性が失われた状態で急な動作をすると、ぎっくり腰を引き起こしやすくなります。
3. 重労働や屋外活動の増加
秋は稲刈りや畑仕事、庭の手入れ、布団の上げ下ろしなど、前かがみになる作業や重いものを運ぶ機会が増える季節です。
- 不慣れな姿勢での作業: 特に、普段デスクワークの方などが、休日に慣れない姿勢で長時間の作業をすると、腰に大きな負担がかかります。
- 重いものの持ち運び: 新しい布団を出したり、冬支度のために重いものを移動させたりする際、正しい姿勢で持ち上げないと、腰に瞬間的な負荷がかかり、ぎっくり腰の原因となります。
このように、秋は「気温の変化」「運動不足」「活動内容の変化」という3つの要因が重なり合い、ぎっくり腰を引き起こしやすい季節と言えるのです。
今からできる!ぎっくり腰の予防法
ぎっくり腰は、日頃のちょっとした心がけで予防できることがほとんどです。ここでは、秋から始められる簡単な予防法をご紹介します。
1. 身体を冷やさない工夫
- 腹巻やカイロの活用: 朝晩の冷え込みに備えて、腹巻をする、腰にカイロを貼るなどして、腰回りを温かく保ちましょう。
- シャワーだけでなく湯船に浸かる: 湯船にゆっくり浸かることで、全身の血行が促進され、筋肉の緊張が和らぎます。
- 温かい飲み物を飲む: 冷たい飲み物を避け、白湯やハーブティーなど温かい飲み物を摂るようにしましょう。
2. 日常生活でできる簡単なストレッチ
硬くなった腰回りの筋肉をほぐすことで、ぎっくり腰のリスクを減らすことができます。特に、朝起きた時や、長時間座った後に行うのが効果的です。
- 腰をひねるストレッチ: 仰向けに寝て、両ひざを立てます。両ひざを揃えたまま、ゆっくりと左右に倒します。顔はひざとは反対側を向き、腰から背中にかけて気持ちよく伸びるのを感じましょう。
- 股関節のストレッチ: 片方のひざを抱えるようにして胸に引き寄せます。股関節周りの筋肉をほぐすことで、腰への負担が軽減されます。
- 猫と牛のポーズ: 四つん這いになり、息を吸いながら腰を反らせ、顔を上げます(牛のポーズ)。次に、息を吐きながら背中を丸め、おへそを見るようにします(猫のポーズ)。この動きをゆっくりと数回繰り返します。
これらのストレッチは、痛みを感じない範囲で、無理のないように行うことが大切です。
3. 正しい姿勢を意識する
- 重いものを持ち上げる時の姿勢: 腰をかがめて持ち上げると、腰に大きな負担がかかります。ひざを曲げてしゃがみ、重心を低く保ったまま、お腹に力を入れて持ち上げるようにしましょう。
- デスクワーク時の姿勢: 長時間座る場合は、背筋を伸ばし、イスに深く腰掛けます。30分に一度は立ち上がって、軽くストレッチをしたり、歩いたりする時間を設けましょう。
もしもぎっくり腰になってしまったら?
どれだけ気をつけていても、突然ぎっくり腰になることはあります。万が一、ぎっくり腰になってしまった時の正しい対処法を知っておくことが非常に重要です。
1. 慌てずに安静にする
激痛が走ったら、まずはその場で楽な姿勢になり、安静にしてください。無理に動こうとせず、身体に負担がかからない姿勢を探しましょう。
2. 炎症を抑えるための「冷やす」
ぎっくり腰は、筋肉や関節の炎症です。発症直後から24~48時間以内は、患部を冷やすことが効果的です。
- 冷却方法: 氷のうや保冷剤(タオルで包む)を使い、痛みのある部分を15~20分程度冷やします。これを1日数回繰り返しましょう。
- 注意点: 冷湿布は冷却効果が限定的なので、氷のうを使う方がより効果的です。また、長時間冷やしすぎると、かえって血行不良を招くことがあるため注意が必要です。
3. 安静に過ごす(ただし、寝たきりはNG)
- 初期の安静: 激痛がピークの1~2日間は、無理に動かないようにしましょう。寝る時は、痛みが和らぐ姿勢(ひざを軽く曲げて横向きに寝る、または仰向けでひざの下にクッションを入れるなど)で休みます。
- 少しずつ動く: 2日ほど経って痛みが少し落ち着いてきたら、無理のない範囲で少しずつ日常生活に戻ることが大切です。痛みが強くなければ、短時間でも立ち上がったり、歩いたりすることで、回復が早まります。長期の寝たきりは、かえって回復を遅らせることがわかっています。
4. 痛みが強い場合は早めに医療機関へ
こんな時は要注意:
- 痛みが激しく、全く動けない。
- 足にしびれや麻痺がある。
- 排尿・排便に異常がある。
- 発熱を伴う。
これらの症状がある場合は、椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症など、別の病気が隠れている可能性があります。自己判断で様子を見ず、すぐに整形外科を受診してください。
まとめ:秋を健やかに乗り切るために
秋は身体にとって、気温の変化や活動内容の変化など、様々なストレスがかかる季節です。ぎっくり腰は、日頃のちょっとした注意やケアで予防できる可能性が高いものです。
予防の3つのポイント:
- 1. 身体を冷やさない: 特に腰回りを温かく保ち、血行を良くしましょう。
- 2. ストレッチを行う: 毎日少しずつでも、腰や股関節の柔軟性を高めましょう。
- 3. 正しい姿勢を意識する: 重いものを持ち上げる時や長時間座る時の姿勢に気をつけましょう。
もし、ぎっくり腰になってしまった場合でも、慌てず適切な対処をすれば、早期の回復が期待できます。
「これはぎっくり腰かな?」と不安に思ったら、無理をせずお気軽にご相談ください。大阪鶴橋、、玉造の整形外科、山本整形外科では、ぎっくり腰の原因を特定し、一人ひとりに合わせた治療とリハビリテーションを提供しています。秋の行楽シーズンを健やかに、そして思い切り楽しむために、今から腰の健康を意識して過ごしましょう。