ランニングやジャンプを繰り返すスポーツをしていると、すねの内側にジンジンとした痛みを感じることがありませんか? その痛みはもしかしたら「シンスプリント」かもしれません。シンスプリントは、正式には**脛骨過労性骨膜炎(けいこつかろうせいこつまくえん)と呼ばれ、すねの骨(脛骨)を覆う骨膜に炎症が起きることで発生するスポーツ障害です。特に成長期の子どもや、ランニング量の多い選手によく見られ、放置すると疲労骨折に移行するリスクもあるため、早期の対処が非常に重要です。
シンスプリントとは?
シンスプリントは、すねの内側、特に下から1/3程度の部位に沿って痛みが生じるのが特徴です。ランニングやジャンプなど、繰り返しの衝撃によってすねの骨に付着している筋肉(後脛骨筋、長趾屈筋など)が引っ張られ、その付着部である骨膜に炎症が生じます。
初期段階では運動後に軽い痛みを感じる程度ですが、進行すると運動中も痛みが続き、さらには安静時にも痛むようになることがあります。
シンスプリントの主な原因
シンスプリントは、主にオーバーユース(使いすぎ)によって引き起こされます。以下のような要因が複合的に関与していると考えられます。
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急激な運動量の増加
- 新学期や新シーズンが始まり、急に練習量や練習強度が増加した際によく発生します。ウォーミングアップが不十分なまま急な運動を行うことも原因となります。
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不適切なトレーニング環境
- コンクリートやアスファルトなど、クッション性の低い硬い路面での長時間のランニングは、すねへの衝撃を増大させ、シンスプリントのリスクを高めます。
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筋力不足・筋力バランスの不均衡
- 足首を上に反らす筋肉(前脛骨筋)と、足首を下げる筋肉(腓腹筋、ヒラメ筋など)の筋力バランスが悪いと、特定の筋肉に負担が集中しやすくなります。
- 特に、すねの内側にある後脛骨筋の筋力不足や、足底のアーチを支える機能が低下している場合に起こりやすいです。
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体の柔軟性不足
- アキレス腱やふくらはぎの筋肉、太ももの筋肉などが硬いと、足首の動きが悪くなり、すねへの負担が増加します。
- 股関節や体幹の柔軟性不足も、ランニングフォームの乱れにつながり、シンスプリントの原因となることがあります。
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不適切なランニングフォーム
- 着地の際に足裏全体で衝撃を受けたり、かかとから強く着地したりする「オーバープロネーション(過回内)」と呼ばれる足首の過度な内返しも、すねの内側への負担を増やす要因となります。
- また、足の指を使わずに走る「足指上げ走り」なども、シンスプリントの原因となることがあります。
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不適切なシューズ
- クッション性が低いシューズ、自分の足に合っていないシューズ、古くなったシューズなどは、地面からの衝撃を吸収しきれず、すねへの負担が増します。
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扁平足
- 足のアーチが低下している扁平足の人は、足裏のクッション機能がうまく働かず、着地時の衝撃がすねに伝わりやすいため、シンスプリントになりやすい傾向があります。
どんなスポーツで起きやすい?
特に陸上競技(長距離走、短距離走)、サッカー、バスケットボール、バレーボール、ラグビーなど、走る、跳ぶ、切り返すといった動作が多いスポーツでよく見られます。
シンスプリントの主な症状
シンスプリントの主な症状は以下の通りです。
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すねの内側、特に下1/3程度の痛み
- 初期は運動中や運動後に違和感や軽い痛みを感じる程度です。
- 進行すると、運動中も持続的に痛みが現れ、ひどくなると安静時や歩行時にも痛みを感じるようになります。
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圧痛
- すねの内側、骨の際に沿って指で押すと痛みを感じます。痛む範囲が比較的広いのが特徴です。
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運動機能の低下
- 痛みのために走るスピードが落ちたり、ジャンプ力が低下したりすることがあります。
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腫れや熱感(稀)
- 炎症が強い場合に、軽く腫れたり、熱を持ったりすることがあります。
シンスプリントと疲労骨折の鑑別
シンスプリントと疲労骨折は、症状が似ているため混同されがちですが、異なる病態です。
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シンスプリント
骨膜の炎症であり、痛む範囲が比較的広い。
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疲労骨折
骨そのものにひびが入ったり折れたりしている状態であり、痛む部位が限局され、特定の1点(ピンポイント)を押すと非常に強い痛みを感じることが多いです。
シンスプリントを放置すると、すねの骨への慢性的なストレスが続き、疲労骨折に移行するリスクが高まります。痛みが悪化したり、ピンポイントの強い痛みを感じるようになったりした場合は、すぐに医療機関を受診し、正確な診断を受けることが重要です。
シンスプリントの診断
診断は、問診で痛みの部位や状況、運動歴などを詳しく伺い、視診や触診で患部の状態(圧痛の有無や範囲)を確認します。加えて、以下の画像検査を組み合わせて行われます。
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レントゲン検査
- シンスプリント自体はレントゲンには写りませんが、疲労骨折の有無を確認するために行われます。
- 長期間にわたるシンスプリントの場合、骨膜が厚くなっている様子が見られることもあります。
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MRI検査
- 疲労骨折の初期段階や、骨膜の炎症、筋肉の状態などを詳細に評価する際に用いられます。
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超音波(エコー)検査
- 骨膜の炎症や、筋肉の微細な損傷などをリアルタイムで観察できることがあります。
シンスプリントの治療
シンスプリントの治療は、主に保存療法が中心となります。
保存療法
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運動量・運動強度の調整
- 最も重要な治療法です。痛みが完全に消失するまで、ランニングやジャンプなどの運動を中止するか、大幅に量を減らします。痛みを我慢して運動を続けると、治りが遅れたり、疲労骨折に移行したりするリスクが高まります。
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アイシング
- 運動後や痛みが強い時に、患部を氷嚢などで冷却し、炎症を抑えます。
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薬物療法
- 非ステロイド性消炎鎮痛剤の内服や外用薬(湿布など)を使用し、痛みや炎症を抑えます。
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理学療法(リハビリテーション)
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疼痛管理
炎症が強い時期には、電気療法などで痛みを軽減します。
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柔軟性の改善
ふくらはぎ、アキレス腱、足関節の柔軟性を高めるストレッチを重点的に行います。
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筋力強化
足底のアーチを支える後脛骨筋や、足首の安定性を高める周囲の筋肉を強化します。体幹の筋力トレーニングも重要です。
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フォーム指導
専門の理学療法士による、すねへの負担を軽減するランニングフォームや着地方法の指導を受けます。
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足底板(インソール)の検討
扁平足がある場合や、足のアーチが低下している場合には、足底板(インソール)を使用することで、足にかかる負担を軽減し、痛みを緩和できることがあります。
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段階的なスポーツ復帰プログラム
痛みがなくなり、身体機能が回復したら、ウォーキングからジョギング、軽いダッシュへと、徐々に運動量や強度を上げていきます。決して焦らず、専門家の指示に従って慎重に復帰を進めることが重要です。
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シンスプリントの予防
シンスプリントは、適切な予防策を講じることで、発症リスクを大幅に減らすことができます。
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段階的な運動量の増加
- 急激な練習量や練習強度の増加は避け、徐々に体を慣らしていくことが大切です。
- 新シーズンや長期休暇明けは、特に注意が必要です。
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十分なウォームアップとクールダウン
- 運動前には、心拍数を上げ、全身を温めるウォーミングアップをしっかりと行いましょう。
- 運動後には、ふくらはぎやアキレス腱などを中心に、十分な静的ストレッチでクールダウンを行い、筋肉の疲労回復を促しましょう。
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柔軟性の維持・向上
- 日頃からふくらはぎやアキレス腱、足関節周囲のストレッチを習慣化し、柔軟性を高めておきましょう。
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筋力バランスの強化
- すね周囲の筋肉(特に後脛骨筋)や足底の筋肉、体幹の筋力をバランスよく鍛えましょう。
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適切なシューズの選択と管理
- クッション性が高く、自分の足に合ったランニングシューズを選びましょう。
- シューズの寿命は走行距離によって決まるため、定期的に新しいものに交換しましょう。
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練習環境への配慮
- できるだけ土や芝生など、クッション性のある柔らかい路面で練習を行いましょう。
- 硬い路面での練習ばかりにならないよう、工夫が必要です。
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足底板(インソール)の使用
- 扁平足などで足のアーチが低い方は、オーダーメイドのインソールを使用することで、足にかかる負担を分散させ、シンスプリントの予防につながります。
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疼痛時の早期対処
- すねに少しでも痛みを感じたら、無理をして運動を続けず、すぐに練習を中止しましょう。軽症のうちに対処することで、重症化や慢性化を防ぐことができます。
シンスプリントの治療は大阪鶴橋・玉造の山本整形外科へ
シンスプリントは、スポーツ活動を活発に行う方にとって非常によく見られる怪我ですが、適切な知識と対策があれば、回復し、再発を防ぐことが可能です。
すねの痛みは、体からの大切なサインです。「たかがシンスプリント」と軽視せず、早期に適切な対処を行うことが、競技生活を長く続けるために非常に重要です。
当クリニックでは、シンスプリントの専門的な診断から、個々の状態に合わせた治療、リハビリテーション、再発予防のためのトレーニング指導まで、トータルでサポートさせていただきます。安心してスポーツに打ち込めるよう、お困りの際はぜひご相談ください。