激しい運動を続けているうちに、特定の場所にじわじわとした痛みが現れ、気づけば骨折していた――。そんな経験はありませんか? 「疲労骨折」は、一度に大きな力が加わって骨が折れる一般的な骨折とは異なり、骨の同じ部位に繰り返し小さなストレスが加わることで、ひびが入ったり、最終的に折れてしまったりする怪我です。特にスポーツ選手に多く見られ、適切な対処が遅れると重症化し、競技復帰が長引く原因にもなります。
疲労骨折とは?

疲労骨折は、骨が持つ修復能力を上回るストレスが繰り返し加わることで発生します。私たちの骨は、常に古い骨が吸収され、新しい骨が作られる「リモデリング」という代謝を繰り返しています。しかし、過度な運動によってこのリモデリングが追いつかなくなると、骨に微細な損傷が蓄積し、やがて骨折に至るのです。
一般的な骨折のような「急激な痛み」ではなく、「いつの間にか痛くなっていた」「特定の動作でじわじわ痛む」といった形で症状が現れることが多いのが特徴です。
疲労骨折が起こりやすい部位と主な原因
疲労骨折は、繰り返し負荷がかかる特定の骨に多く発生します。特に以下の部位は疲労骨折を起こしやすい傾向にあります。
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すね(脛骨)
陸上競技(長距離走、短距離走)、バスケットボール、サッカーなどで、ジャンプやダッシュ、着地を繰り返すことで、すねの骨に繰り返し衝撃が加わり発生しやすいです。特に陸上選手に多く見られます。
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足の甲(中足骨)
陸上競技、バスケットボール、サッカーなど、走る、跳ぶ、着地するといった動作で足の甲に負荷がかかることで起こります。特に第2、3中足骨に多く見られます。
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かかと(踵骨)
陸上競技(走り高跳び、走り幅跳び)、バスケットボールなどで、ジャンプの着地や、硬い路面での走行を繰り返すことで発生することがあります。
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腰(腰椎分離症)
野球、バレーボール、バスケットボール、体操など、体幹をひねる、反らす動作を繰り返すことで、腰の骨(椎弓)に負担がかかり発生します。特に成長期の子どもに多く見られます。
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太もも(大腿骨)
長距離走、サッカーなどで、着地や走行時の衝撃が繰り返し大腿骨に伝わることで発生することがあります。
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ひじ(肘頭など)
**野球(投球動作)**などで、肘の伸展動作の繰り返しにより肘頭(ちゅうとう)に負担がかかることがあります。野球選手に特徴的な疲労骨折の一つです。
疲労骨折の主な原因は、以下のような要因が複合的に絡み合っていると考えられます。
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練習量の増加・休息不足
短期間での急激な練習量や強度の増加、または十分な休息が取れないことによる疲労の蓄積は、骨のリモデリングが追いつかなくなる最大の原因です。
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不適切なトレーニング方法やフォーム
特定の部位に負担が集中するようなフォームや、硬い路面での練習の繰り返し、不適切なシューズの使用などもリスクを高めます。
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筋力不足や筋力バランスの不均衡
骨を保護する筋肉が不足していたり、特定の筋肉だけが発達していたりすると、骨への衝撃が直接伝わりやすくなります。
体幹の筋力不足も、全身の安定性を損ない、特定の骨に過度な負担をかける原因となります。 -
栄養不足(特にカルシウム、ビタミンD)
骨の材料となる栄養素が不足していると、骨が弱くなり、リモデリングが滞りやすくなります。
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月経不順(女性アスリート)
女性アスリートで月経不順がある場合、ホルモンバランスの乱れにより骨密度が低下し、疲労骨折のリスクが高まることがあります(女性アスリートの三主徴)。
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体の構造的な問題
扁平足やO脚、X脚など、生まれつきの骨格やアライメントの問題が、特定の部位への負担を増大させることがあります。
疲労骨折の症状
疲労骨折の主な症状は以下の通りです。
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特定の部位の痛み
運動中に繰り返し現れ、運動を休むと軽減することが多いです。初期には「だるい」「重い」程度の違和感から始まり、進行すると安静時にも痛みを感じるようになります。
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圧痛
骨折している部位を押すと、強い痛みを感じます。これが疲労骨折を疑う重要なサインの一つです。
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腫れ
患部が軽く腫れることがあります。
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運動時の増悪
特定の動作(例:走る、ジャンプする、ひねるなど)で痛みが再現され、悪化します。
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骨の変形や熱感(稀)
かなり進行した場合に見られることがあります。
これらの症状は、腱鞘炎やシンスプリント(脛骨過労性骨膜炎)など、他のスポーツ障害と似ていることも多いため、自己判断せずに専門医の診断を受けることが重要です。
疲労骨折の診断
診断は、問診で痛みの部位や状況、運動歴などを詳しく伺い、視診や触診で患部の状態(圧痛の有無など)を確認します。加えて、以下の画像検査を組み合わせて行われます。
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レントゲン検査
初期の疲労骨折はレントゲンに写らないことも多いですが、骨折が進行すると骨に「仮骨(かこつ)」と呼ばれる新しい骨の形成が見られたり、骨折線が確認できたりします。
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MRI検査
疲労骨折の診断に非常に有用な検査です。初期の骨の浮腫(むくみ)や微細な骨折線を、レントゲンでは捉えられない段階で検出できます。
他の軟部組織の損傷との鑑別にも役立ちます。 -
骨シンチグラフィー
骨の代謝が活発になっている部位を画像化する検査で、早期の疲労骨折を検出する感度が高いです。
疲労骨折の治療
疲労骨折の治療は、原則として保存療法が基本となります。
保存療法
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運動中止・安静
最も重要な治療法です。痛みの原因となっている運動を完全に中止し、骨に負荷をかけない期間を設けることで、骨の修復を促します。安静期間は骨折部位や重症度によりますが、数週間から数ヶ月に及ぶこともあります。
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免荷(めんか)
患部に体重がかからないように、松葉杖や装具を使用することがあります。
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薬物療法
非ステロイド性消炎鎮痛剤の内服などを使用し、痛みや炎症を抑えます。
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栄養指導
骨の修復に必要なカルシウムやビタミンDなどの栄養素を適切に摂取するよう指導します。
理学療法(リハビリテーション)
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疼痛管理
痛みが強い時期には、電気療法などで痛みを軽減します。
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筋力強化とバランス改善
安静期間中に低下した筋力を回復させ、特に体幹や股関節周囲の筋力を強化して、骨への負担を軽減します。
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柔軟性の改善
体の柔軟性を高め、特定の部位に負担が集中しないようにします。
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フォーム指導
専門家による、怪我の原因となった不適切なフォームの改善指導が重要です。
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段階的なスポーツ復帰プログラム
痛みがなくなり、画像検査で骨の修復が確認されたら、ジョギングから始めるなど、徐々に運動強度や量を上げていくプログラムに沿って慎重に復帰を目指します。焦って復帰すると再発のリスクが高まるため、専門家の指導の下、ゆっくりと進めることが重要です。
手術療法
保存療法で治癒が見込めない場合や、骨折部位の特性上、偽関節(骨がくっつかない状態)になりやすい場合(脛骨の特定の部位など)には、手術が検討されることがあります。
疲労骨折の予防
疲労骨折は、適切な予防策を講じることで、発症リスクを大幅に減らすことができます。
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練習量の管理と段階的な負荷増加
急激な練習量や強度の増加は避け、徐々に体を慣らしていくことが重要です。トレーニング日誌などを活用し、自身の練習量を把握しましょう。
十分な休息日を設け、疲労を蓄積させないようにしましょう。 -
適切なトレーニングフォームの習得
専門の指導者から、効率的で身体に負担の少ないフォームを学ぶことが重要です。
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全身のコンディショニング
体幹や下半身、骨を保護する周囲の筋肉をバランスよく強化しましょう。
柔軟性を高めるストレッチも日常的に行い、筋肉や関節の可動域を広げましょう。 -
栄養管理
骨の健康を維持するために、カルシウムやビタミンD、タンパク質などをバランスよく摂取しましょう。
特に女性アスリートは、月経周期や栄養状態にも配慮が必要です。 -
適切なシューズ選びと路面環境
クッション性のあるトレーニングシューズを選び、定期的に買い替えましょう。
アスファルトなどの硬い路面での長時間の練習は避け、土や芝生などの柔らかい場所も活用しましょう。 -
疼痛時の早期受診
特定の部位に繰り返し痛みが現れたり、安静時にも痛むようになったりした場合は、無理をして運動を続けず、すぐに整形外科を受診しましょう。早期発見・早期治療が、重症化を防ぎ、早期復帰への近道となります。
まとめ
疲労骨折は、アスリートにとってやっかいな怪我の一つですが、その原因と症状を理解し、適切な予防策と治療を行うことで、再び元気にスポーツに打ち込むことができます。体のサインを見逃さず、少しでも異変を感じたら、自己判断せずに整形外科専門医にご相談ください。大阪市鶴橋・玉造の山本整形外科では、疲労骨折の診断から、個々の状態に合わせた治療、リハビリテーション、再発予防のためのトレーニング指導まで、トータルでサポートさせていただきます。安心してスポーツを続けられるよう、お困りの際はぜひご相談ください。