
前十字靭帯損傷は、膝の安定性に関わる重要な靭帯の一つである前十字靭帯が、スポーツ活動中などに損傷することで起こる怪我です。放置すると膝の不安定感や変形性膝関節症への進行リスクが高まるため、適切な診断と治療が非常に重要になります。
前十字靭帯とは?
前十字靭帯は、膝関節の中央に位置し、大腿骨と脛骨をつなぐ強固な線維組織です。その主な役割は、脛骨が前方へずれすぎるのを防ぎ、また、膝が過度に回旋するのを制限することで、膝関節の安定性を保つことです。この靭帯が正常に機能することで、私たちは安心して走ったり、ジャンプしたり、方向転換したりすることができます。
前十字靭帯損傷の主な原因
前十字靭帯損傷の多くは、スポーツ活動中に発生します。特に、非接触型損傷と呼ばれる、相手選手との接触がない状況で起こるものが約7割を占めると言われています。
具体的な原因となる動作やスポーツは以下の通りです。
急な方向転換や停止(カッティング動作)
サッカー、バスケットボール、ラグビー、ハンドボール、アルペンスキーなどで、走行中に急ブレーキをかけたり、進行方向を素早く変えたりする際に、膝に大きなねじれの力が加わることで損傷しやすいです。
ジャンプからの着地
**バレーボール、バスケットボール、陸上競技(走り高跳び、走り幅跳びなど)**などで、ジャンプして着地する際に、膝が伸びきった状態で着地したり、内側に大きく膝が入り込む(ニーイン)ような着地をしたりすると、前十字靭帯に過度な負担がかかります。
急な減速
サッカー、ラグビー、テニスなどで、速いスピードから急に減速する際に、膝に前方への強い力がかかることで損傷することがあります。
接触型損傷
比較的少ないですが、アメリカンフットボール、ラグビー、スキーなどで、相手選手との衝突や転倒によって、膝に直接的な強い衝撃やねじれの力が加わることで損傷することもあります。
特に、女性アスリートは、男性アスリートに比べて前十字靭帯損傷のリスクが高いとされています。これは、骨盤の広さや筋力バランス、ホルモンの影響などが複合的に関与していると考えられています。
前十字靭帯損傷の症状
損傷直後には、以下のような症状が現れることが多いです。
「ブツッ」という断裂音(ポップ音)損傷時に膝の中で音がするのを感じる場合があります。
激しい痛み
受傷直後から強い痛みが現れます。
急速な腫れ
関節内に出血が起こるため、数時間以内に膝が大きく腫れてきます。
膝の不安定感
膝が「ガクッと」ずれるような感覚や、「膝が外れる」ような不安感が生じます。特に、階段の昇降や方向転換時に感じやすいです。
膝の動かしにくさ
腫れや痛みのため、膝を完全に曲げ伸ばしすることが難しくなります。
時間が経過すると、腫れや痛みは引いてくることがありますが、前十字靭帯が完全に断裂している場合、膝の不安定感が残り、日常生活やスポーツ活動に支障をきたすようになります。繰り返しの不安定性によって、半月板損傷や軟骨損傷といった他の膝の構造にも悪影響を及ぼし、将来的には変形性膝関節症へと進行するリスクが高まります。
前十字靭帯損傷の診断
診断は、問診や視診、触診といった診察に加え、以下の画像検査を組み合わせて行われます。
レントゲン検査
骨折の有無を確認するために行われますが、靭帯自体は写りません。
MRI検査
前十字靭帯の状態を詳細に評価できる最も重要な検査です。靭帯の断裂の程度や、半月板、軟骨などの合併損傷の有無も確認できます。
ストレスレントゲン検査
膝に負荷をかけながらレントゲンを撮影することで、膝の不安定性の程度を客観的に評価します。
前十字靭帯損傷の治療
前十字靭帯損傷の治療は、患者様の年齢、活動レベル、損傷の程度、合併損傷の有無などによって総合的に判断されます。
保存療法
完全に靭帯が断裂している場合、靭帯そのものが自然に治癒することはありません。しかし、スポーツをしない方や、高齢で活動量が少ない方、部分損傷で不安定性が軽度な場合などには、手術を行わずに保存療法を選択することがあります。
保存療法では、装具の装着、リハビリテーションによる筋力強化やバランス能力の改善、膝の安定化を図ります。
手術療法
スポーツ活動への復帰を目指す方や、膝の不安定感が強く日常生活に支障がある方、半月板損傷などの合併損傷がある場合には、手術療法が推奨されます。
現在主流となっているのは、自分の腱(ハムストリング腱や膝蓋腱など)や、他者の腱(アキレス腱など)を移植して、新しい前十字靭帯を再建する靭帯再建術です。
手術後は、膝の機能回復とスポーツ復帰を目指して、専門的なリハビリテーションを長期間にわたって行うことが不可欠です。
手術が必要な場合、当院では提携の医療機関にご紹介いたします。
前十字靭帯損傷の予防
前十字靭帯損傷を完全に防ぐことは難しいですが、リスクを軽減するための予防策はあります。
適切なウォームアップとクールダウン
運動前後のストレッチや軽い運動は、筋肉の柔軟性を高め、怪我のリスクを減らします。
筋力トレーニング
特に太もも裏のハムストリングスや、お尻の筋肉(殿筋群)の強化は、前十字靭帯への負担を軽減するのに役立ちます。
バランス能力の向上
不安定な場所でのトレーニングや片足立ちの練習など、バランス感覚を養うことも重要です。
正しい動作の習得
専門の指導者から、ジャンプの着地や方向転換の際の正しいフォームを学ぶことで、膝への負担を減らすことができます。
疲労管理
過度な練習や試合は疲労の蓄積を招き、怪我のリスクを高めます。適切な休息を取ることも大切です。
まとめ
前十字靭帯損傷は、特にスポーツ選手にとって深刻な怪我ですが、早期に適切な診断と治療を受けることで、多くの場合はスポーツ活動への復帰が可能です。膝に痛みや不安定感を感じた場合は、自己判断せずに整形外科を受診し、専門医に相談することをお勧めします。
大阪市鶴橋・玉造の山本整形外科では前十字靭帯損傷に関する診断から治療、リハビリテーションまで、患者様一人ひとりに合わせた最適な治療プランをご提案いたします。気になる症状がございましたら、お気軽にご相談ください。